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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1010号 判決 1949年2月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人飛鳥田一雄及び同飛鳥田喜一の上告趣意第一點について。

論旨は、原審公判に於て、裁判所が被告人に對してその陳述を求めるに先ち、自己に不利益な答辯をする義務がない旨を説示しなかったのは、憲法第三八條第一項及び刑訴應急措置法第一〇條第一項にいわゆる、自己に不利益な供述を強要したものであるから、違法であると主張している。しかし右の法條は、威力その他特別の手段を用いて,供述する意思のない被告人に供述を餘儀なくすることを禁ずる趣旨であって、前記のような説示をすることを要求しているのではないから、裁判所がそのような説示をしなかったからとて、これを違法とすることはできない。

本來公判廷においては、裁判所の訊問に對して供述するか否かは被告人の自由である。假りに所論のように、被告人が供述の義務あるものと誤信して供述したとしても、これを以て裁判所が供述を強要したものということはできない。このような場合を慮って、裁判所が前記のような説示をすることは、望ましいことであるにしても、本件に適用さるべき舊刑訴法上そうすることの義務がある譯ではない。よって論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由により舊刑事訴訟法第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野毅 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介)

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